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古民家を諦めるな!ボロボロでも大丈夫。古さと新しさが融合した宿「八百熊川」の改修工事。

  • 福井県三方上中郡若狭町熊川:2階建木造住宅

古材や建具のアンティーク感はそのままに、現代の暮らしにフィットしたおしゃれな住まい。古民家リノベーションに憧れる方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな古さと新しさをうまく融合させた古民家宿、「八百熊川(やおくまがわ)」のお話を取材しました。

ここは福井県にある宿場町「熊川宿(くまがわじゅく)」という名所。
今回ご紹介する物件は、古民家ステイを体験しながら、宿場町の趣や、自然の癒しを体感できる宿として設立しました。木創が設計から参加し、改修をお手伝いした建物です。

今回取材に協力してくださるのは株式会社デキタの代表、時岡(ときおか)さん。
「辻さんのこと褒めさせたら僕が一番うまいで!」
早速、取材内容に応える気満々で冗談を飛ばしてくれます。株式会社デキタさんはこの熊川宿で古民家を利用した宿やシェアオフィスを開発・運営している会社で、木創とは開発当初からの付き合いです。両社とも20代~40代の若手が集う元気な会社で、メンバーはみな気心知れた仲です。
今回の設計や進行を担当したのはなんとデキタさん入社1年目、若干25歳の新人さん。さぞかし大仕事だったかと思いますが、メンバー同士助け合いながら、沢山の人を巻き込んで和気あいあいとした楽しい現場だったそうです。

八百熊川の宿「つぐみ」「ひばり」の二棟の前で。中の崩れた内装を片付けるところから始まった改修工事。関係者や家族も参加しながら、みんなで協力して乗り越えてきました。
建具が美しいエントランス。間にある引き戸を閉めれば2棟に分けて、開ければまるごと1棟として貸し切りができる作り。
料理ができる広いキッチンとリビングダイニング。この町に暮らすように古民家ステイを楽しめます。
ボロボロでも大丈夫なの?

今は美しい宿ですが、着手当初は物で溢れ、床や天井が落ち、野生動物が住み着き、この姿からは想像もできないほど荒れていたこの建屋。
古民家の改修は、新築とは違った難題がたくさん出てきます。工事が難しい箇所も多く、技術や知識が問われます。古すぎて修繕できない物件もあるのでは?と聞くと、意外にも「基本、木造はなんとでもなるんです。」と言う辻代表。
「例えば柱がボロボロでも、浮かして、継いで、と対処法がちゃんとあります。日本の昔からある技術を昔からある建ちもんに活かすだけなんで、やり方が確立されています。」
家の壊れた部分の修繕は、たとえ国宝級の建物でも一般の民家でも方法は一緒なのだそう。そういった伝統的な技術をちゃんと知っていれば、困ることはそう無いのだとか。

改修前の記録写真より。今からは想像もつかない状態でした。
新たに継いだ部分。つぎはぎがあっても、古材ならではの味があり美しさを感じます。
想定外の工事も発生するけれど…

新築とは違い、古民家改修はまずは建物の診断から始まります。ここの修繕も、状態を見ながら計画していきました。老朽化だけでなく、途中途中で人の手が入っているために構造が甘くなっている部分もあったそうです。
「その時々の持ち主の予算とか、いろいろ事情もあるんです。そういうのもその建物の歴史というか。」「なんでここで建材が切れてるんだろってところあるよね。」

立派な梁が美しい2階の寝室。建材が切れている部分も。「昔は木材を大切に使っていたから、不足箇所をあえて揃えずにいたという可能性もあります。」建てた当時のエピソードが想像できます。

調査してみて構造上の問題が発見され、施工内容を変える事もしばしばあります。そういった予想外の工事が発生すればするほど、かかってくるのがコスト。安全性はもちろん大切ですが、いくらでもお金がかけられるわけではありません。経営者の本音として、そのバランスに配慮した大工目線の提案は助かる、と時岡さんは言います。「リアルな話、経営上コストはギリギリを攻めたい場合が多いので。例えば見えないところは安価な新建材を使うという具合に、ビジネスに合った提案をもらえるのがとても有難いんです。」

現代的なキッチンを古民家に馴染ませたい

設計段階から両社がこだわったコンセプトは、「ここ(熊川)にあってもおかしくない自然なたたずまい」。日本家屋らしい雰囲気で宿泊客にほっとしてもらいたいと考えました。
ただ、宿を利用してほしい層は、若いカップルや女性です。コンセプトを表わしながらも、客層の現代的な好みに合った工夫が大切でした。
例えばアイランドキッチン。宿泊された方が新鮮な食材を使って、自分で料理を楽しむことができるキッチンです。アイランドキッチンは古民家にはもともと無い設備なので、下手をすると内装に合わなかったり、圧迫感が出てしまいます。既製品ではうまく演出できず、木創に特注することになりました。
サイズ感や素材にこだわり、こだわりのオリジナルキッチンを考案。天板にはにモルタルという素材を利用し、手作業で質感を微調整することで、うまく内装と馴染ませました。

開放的なアイランドキッチン。表玄関からの風が中庭まで通り抜ける気持ちの良い空間。
部屋に合うようにわざと小ぶりに作った床の間。辻代表の昔の実家に付いていた床の間の一部を移築したそう。大変貴重な古材ですが、そのおかげでぐっと雰囲気がよくなっているのがわかります。

このように、古民家としては挑戦的な設備でも、意匠としては馴染んでいるというのが八百熊川のこだわりです。「普通の日本家屋には無いはずのものでも、人が見た時にしっくりくることを優先して、色や素材を相談していきました。」と時岡さん。その要求に木創は「帰ってきて安心するのが家。」という、普段の家づくりの感覚をもとに、サイズ感や質感の微妙なバランスを提案をしていったそうです。

山村の古民家なのでカントリーな雰囲気をベースにしたいということで、土壁に。
白漆喰がよくある古民家スタイルだが、ここではあえてそれを用いなかった。
鉄工所にオリジナルを発注。表面のマットな印象を大切に仕上げ、カントリーな雰囲気にシティな印象をプラスするよう、うまく仕上げました。
大工に大切なのは、職人さんとの間に立てる親方力

建築の工事はもちろん、施主さんと大工さんだけで行うわけではありません。左官屋さん、電気の業者さん、水回りの設備屋さんなど多種多様な専門職人で連携して行います。
施主さんの要望を叶えようとすると、職人に無理をお願いしなくてはならない場面が出てきます。その時、施主さんと職人の間に入る親方大工の役割は重要だそう。時岡さんが、事業者の目線で説明してくれました。
「技術や知識ももちろん大事ですが、僕らが大工さんにお願いする時、一番期待するのは『親方力』です。つまりマネージメント力。技術者さんをまとめてくれる親方であることが大工さんのすごい重要なポイントで。僕らのやりたいことは職人さんから見たら無理な要望も多いと思うんです。そんな僕らと職人さんとの間に入ってくれる人がとても大切なんです」

入り口の表札。いろいろとこだわった結果、制作が大変な箇所だったそう。取り付けが複雑な形になったが、最後の仕上げまで手作業でコツコツ行った。

例えば今まで作ったことのない形状など、やってみなくてはわからない、非常に手間がかかるかもしれない工事を頼むこともあります。業者さんによっては引き受けてくれないこともあるそうですが、木創の職人さんの場合はどのようにお願いしているのでしょうか?
「皆さんお金払ったら仕事する、っていうタイプじゃないんです。」と辻代表。「でもみんないい仕事がしたいと思っています。職人ですから。」
お互い職人同士、そこは分かり合えている。そうやって信頼を築いてきた過程があるから、やりづらいことにも応えてくれる関係性が出来上がっているそうです。それでもどうしても無理をお願いしないといけない時は「僕も一緒にやります、って最後まで手伝います。」
そのほかにも完成時には施主さんのおごりで飲み会してはどうか、など、事業者と職人を繋ぐアドバイスで一緒にチームを盛り上げていくそうです。

実は一番内装の印象に影響する天井。残り時間が少ない中決定した天井板は、準備が難しい特注素材でした。「この幅でこの広さの天井板ってなかなか無くて。乾燥に時間もかかるんです。でも材木屋さんが頑張ってくれました」
古民家で町を盛り上げていく

沢山の人が関わって進んでいく古民家改修。楽しそうに語る二人の様子を拝見していると、関係者みんなでアイデアを出し合いながら進めている現場は、さぞかし活気に溢れていたんだろうなと感じました。最後には関係者の家族も巻き込んで撮影をしたり、内覧会やゲスト宿泊をしたりと大所帯で楽しんだそうです。

この地域にはまだまだ沢山の古民家がありますが、この取り組みを知り、同じように古い建物を利用して何かをしたいという人も集まって来ているそうです。
昔ながらの建物はそれだけで魅力がありますが、人が入り工夫することで新しい活気が生まれ、さらに魅力的になっていく。そうやって利用し続けることが、大切に受け継がれていくということなのかもしれません。この地域のこれからと、古民家改修の未来に、注目です。

八百熊川 公式サイト
https://yao-kumagawa.com

  • 取材協力=株式会社デキタ
  • 写真=オザキマサキ
「八百熊川」は、公式サイトから予約受付中。優しいスタッフのおもてなしはもちろん、宿場町の人々との触れ合いも楽しみな旅を是非。蔵を改装した3棟目の宿も近々オープン予定!
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